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最高裁判所第一小法廷 昭和61年(オ)264号 判決

上告人 株式会社和井

被上告人 依田エミ 外1名

主文

本件上告を棄却する。

上告費用は上告人の負担とする。

理由

上告代理人○○○○の上告理由第一について

遺言者の所有に属する特定の不動産が遺贈された場合には、目的不動産の所有権は遺言者の死亡により遺言がその効力を生ずるのと同時に受遺者に移転するのであるから、受遺者は、遺言執行者がある場合でも、所有権に基づく妨害排除として、右不動産について相続人又は第三者のためにされた無効な登記の抹消登記手続を求めることができるものと解するのが相当である(最高裁昭和28年(オ)第943号同30年5月10日第三小法廷判決・民集9巻6号657頁参照)。これと同旨の見解に立つて、被上告人らが本件訴えにつき原告適格を有するとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でない。論旨は、採用することができない。

同第二について

民法1012条1項が「遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。」と規定し、また、同法1013条が「遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。」と規定しているのは、遺言者の意思を尊重すべきものとし、遺言執行者をして遺言の公正な実現を図らせる目的に出たものであり、右のような法の趣旨からすると、相続人が、同法1013条の規定に違反して、遺贈の目的不動産を第三者に譲渡し又はこれに第三者のため抵当権を設定してその登記をしたとしても、相続人の右処分行為は無効であり、受遺者は、遺贈による目的不動産の所有権取得を登記なくして右処分行為の相手方たる第三者に対抗することができるものと解するのが相当である(大審院昭和4年(オ)第1695号同5年6月16日判決・民集9巻550頁参照)。そして、前示のような法の趣旨に照らすと、同条にいう「遺言執行者がある場合」とは、遺言執行者として指定された者が就職を承諾する前をも含むものと解するのが相当であるから、相続人による処分行為が遺言執行者として指定された者の就職の承諾前にされた場合であつても、右行為はその効力を生ずるに由ないものというべきである。これと同旨の原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はない。論旨は、採用することができない。

同第三について

所論の点に関する原審の認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、正当として是認することができ、その過程に所論の違法はない。論旨は、ひつきよう、原審の専権に属する証拠の取捨判断、事実の認定を非難するか、又は原審において主張、判断を経ていない事項につき原判決の違法をいうものにすぎず、採用することができない。

よつて、民訴法401条、95条、89条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 高島益郎 裁判官 角田禮次郎 大内恒夫 佐藤哲郎 四ツ谷巖)

上告代理人○○○○の上告理由

第一原判決には民法第1012条の解釈を誤つた違法がある。

一 原判決は理由一において、上告人の本案前の主張について、「しかし、本訴における第一審原告らの請求は、亡ヨリ子及び第一審原告サト子が本件遺言による遺贈により本件不動産の所有権を取得したことを前提として、受遺者としての地位において、同不動産に対する妨害排除を求めるというものであるから、右請求は何ら民法の右各規定に抵触するものではなく、したがつて、遺言執行者の指定とはかかわりなく、右ヨリ子及び第一審原告サト子において自ら本訴を提起、追行することができるものと解すべきである。第一審被告の本案前の主張は理由がない。」と判示した。

二 たしかに遺贈により目的物の所有権は受遺者に直接移転するけれども、目的物の引渡や移転登記手続は遺言の執行に必要な行為であり、民法第1012条により遺言執行者の職務権限に含まれるものである。受遺者が遺贈不動産について所有権移転登記を訴求する場合は遺言執行者のみが被告適格を有し相続人は被告適格を有しないとされている(最高裁昭和43年5月31日判決、民集22巻5号1137頁)。受遺者に移転登記をする前提として、相続人が遺贈不動産に相続登記をなしたり第三者が受遺者の移転登記に抵触するような登記をした場合に、その抹消を請求することも遺言の執行に必要な行為として遺言執行者の職務権限に属するものである(大審院昭和15年2月13日判決、法律評論29巻民法606頁)。

三 よつて、被上告人らに本訴の原告適格を認めた原判決は違法である。

第二原判決には、民法第1013条および第177条の解釈を誤つた違法がある。

一 原判決は、理由二の5において、「右1ないし4に説示したところからすれば、要造が本件不動産につき同人名義の相続登記を経由したうえ、第一審被告に対してその主張のような根抵当権の設定及びその設定登記をしたとしても、右根抵当権設定行為は、前記民法第1013条の規定に抵触する相続人の処分行為として無効なものというべきであり、受遺者であるヨリ子及び第一審原告サト子は、前記遺贈によるそれぞれの所有権取得につき、その所有権移転登記を経ることなくこれを第一審被告に対抗することができるものと解すべきである。」と判示した。

二 甲第1号証によれば、遺言者依田松吉は、昭和45年10月21日付公正証書によつて遺言をし、訴外島田竹雄を遺言執行者に指定している。

しかし、訴外島田が遺言執行者に就職することを承諾した旨の証拠は全くない。

よつて、遺言執行者が就職する以前は、遺言執行者がない場合であり、民法第1013条にいう「遺言執行者がある場合」には該当せず、同法条の適用はない。

第一審判決は民法第1013条の「遺言執行者がある場合」には就職の承諾前も含むと解している。しかし、同法条の相続人の処分制限については現在何ら公示の方法が認められておらず相続人から相続財産を譲受けたり担保権を設定した善意の第三者に不測の損害を与え、取引の安全を害すること甚しい。

よつて、善意の第三者の保護を図るため同法条の適用は限定的に行われるべきである。よつて、遺言執行者の就職前は同条の適用はない。

さすれば、上告人は差押債権者として民法第177条の第三者に該当し、被上告人らは遺贈による所有権移転登記をうけていないから、所有権取得をもつて上告人に対抗できないものである(最高裁昭和39年3月6日判決、民集18巻3号437頁)。

三 よつて、原判決は民法第1013条および第177条の解釈を誤り、被上告人らに登記の対抗要件なしで遺贈不動産の所有権を認める違法を犯したものである。

第三〔略〕

〔参照1〕 二審(東京高 昭59(ネ)2708号 昭60.12.17判決)

主文

一 原判決中、第一審原告ら敗訴の部分を取り消す。

二 第一審被告が昭和56年7月22日宇都宮地方裁判所昭和56年(ケ)第121号不動産競売事件において、別紙物件目録記載(四)の建物についてした担保権の実行としての競売はこれを許さない。

三 右建物について宇都宮地方裁判所が昭和57年11月8日にした担保権の実行としての競売停止決定はこれを認可する。

四 第一審被告の本件控訴を棄却する。

五 訴訟費用は、第一、二審とも第一審被告の負担とする。

六 本判決主文三項は仮に執行することができる。

事実

一 当事者の求める判決

1 第一審原告ら

(一) 第一審原告らの控訴について

主文一、二及び五項同旨

(二) 第一審被告の控訴について

主文四項同旨

2 第一審被告

(一) 第一審原告らの控訴について

控訴棄却

(二) 第一審被告の控訴について

原判決中、第一審被告敗訴の部分を取り消す。

第一審原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は、第一、二審とも第一審原告らの負担とする。

二 当事者の主張

次に付加するほかは、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

1 第一審被告の新主張

仮に本件不動産が第一審原告ら主張のとおり亡ヨリ子及び第一審原告サト子に遺贈されたものであるとしても、同人らは、昭和52年11月4日宇都宮家庭裁判所に受理された相続放棄の申述により、右遺贈を放棄した。

2 右主張に対する第一審原告らの認否

右主張は否認する。右相続放棄の申述は、要造が偽造文書によつてなしたもので無効である。

三 証拠関係〔略〕

理由

一 第一審被告の本案前の主張について

成立に争いのない甲第1号証によれば、松吉は、昭和45年10月21日付公正証書によつて本件遺言をし、その第2条において訴外島田竹雄を遺言執行者に指定していることが認められる。そして、遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する(民法1012条)反面、遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない(同法1013条)とされている。

しかし、本訴における第一審原告らの請求は、亡ヨリ子及び第一審原告サト子が本件遺言による遺贈により本件不動産の所有権を取得したことを前提として、受遺者としての地位において同不動産に対する妨害排除を求めるというものであるから、右請求は何ら民法の右各規定に抵触するものではなく、したがって、遺言執行者の指定とはかかわりなく、右ヨリ子及び第一審原告サト子において自ら本訴を提起、追行することができるものと解すべきである。第一審被告の本案前の主張は理由がない。

二 本案について

1 請求原因1の事実及び同2のうち本件土地がもと松吉の所有であつた事実は、当事者間に争いがない。

2 本件建物が松吉の所有であつたか否かについて検討する。

前掲甲第1号証、成立に争いのない同第2号証、同第4号証、同第9号証、原審における証人依田要造の証言により真正に成立したものと認められる同第3号証、原審及び当審における証人依田要造、原審における証人石山三重子の各証言並びに原審における第一審原告依田ナミの本人尋問の結果に弁論の全趣旨を総合すれば、松吉が本件遺言をした昭和45年当時、松吉の長男修一郎は長らく行方不明であり、二男要造は老齢の松吉夫婦の面倒をみることなく東京で働いており、長女三重子及び三女サヨ子は他家に稼ぎ、松吉夫婦と以前から同居していたのは、ともに病身である四女のヨリ子と五女の第一審原告サト子だけであつたので、松吉は、同人の死亡後は自宅の建物とその敷地をヨリ子と第一審原告サト子に取得させるため本件遺言したものであること、その後昭和52年4月ころ、老朽化した右建物を取り壊して建替えをすることになつたが、松吉は怪我などのために弱つていたので、当時東京から引き揚げてきて同居していた要造に右建替えの件を依頼し、その建築費用として500万円を要造に預けたこと、要造は、同年5月11日、自らが注文者となつて訴外高木多市との間で新建物の建築請負契約を締結したこと、右新建物の建築が、台所の工事や風呂場のタイル貼りなどを残すだけでほぼ出来上り、松吉らがこれに居住しはじめてから間もなく、同年7月16日松吉が死亡したこと(右年月日に松吉が死亡したことは当事者間に争いがない。)、松吉と要造とは折合いが良くなく、本件遺言に関して松吉が生前要造に話をしたことはなく、他方、右新建物を遺言の対象から除外するような意向を松吉が示したこともなかつたこと、以上の各事実が認められ、これに反する証拠はない。

右認定事実によれば、右建替え後の新建物である本件建物は、松吉が死亡する以前にすでに独立の不動産として所有権の対象となりうる程度にまで完成していたものであり、かつ、当事者の合理的意思をも参酌すると、その所有権は右の時点で実質的な建築主である松吉に帰属したものと認めるのが相当である。もつとも、成立に争いのない甲第10号証及び乙第11号証によれば、本件建物については、同年9月6日に要造名義で保存登記の申請及びこれに基づく保存登記がなされており、また、その登記申請書類及び登記簿には、本件建物が「昭和52年8月27日新築」と表示されていることが認められるけれども、右登記手続は要造が勝手にしたものであることは、同人の前掲証言に徴して明らかであるから、右事実は何ら前記認定判断を妨げるものではなく、他にこれを動かすに足りる証拠はない。

したがつて、本件建物は、本件土地とともに、松吉の死亡時においてその相続財産に属していたものというべきである。

3 進んで、第一審原告ら主張の遺贈の点について検討するに、当裁判所も、右主張の遺贈が行われたものと判断する。その理由は、次に訂正するほか、原判決10枚目裏5行目から同13枚目表5行目までの説示のとおりであるから、これを引用する。

(一) 同11枚目裏5行目の「一般には」から同12枚目裏4行目の「先に認定したように、」までを削除し、これに代えて「松造が本件遺言をした事情は前認定のとおりであること、」を加える。

(二) 同12枚目裏6、7行目の「右公正証書は要造が帰宅して2か月位後に敢えて作成されたものであること、」を削除する。

4 そうすると、昭和52年7月16日松吉が死亡したことにより、本件遺言による遺贈は効力を生じ、本件不動産は右遺言指定の持分割合によりヨリ子及び第一審原告サト子の共有になつたものというべきである。

第一審被告は、右両名が昭和52年11月4日字都宮家庭裁判所に受理された相続放棄の申述により右遺贈を放棄したものであると主張するが、前掲証人依田要造、同石山三重子の各証言及び前掲第一審原告依田ナミの本人尋問の結果によれば、松吉の相続についてヨリ子及び第一審原告サト子を含む一部相続人の名義で同裁判所に提出された各相続放棄の申述書(乙第5号証ないし第9号証)は、いずれも要造が各名義人の意思に基づかずに恣に作成、提出したものであることが認められ、これに反する証拠はないから、右各相続放棄の申述は無効であり、これによつて前記遺贈の放棄の効力を生ずるに由ないものというほかない。

5 右1ないし4に説示したところからすれば、要造が本件不動産につき同人名義の相続登記を経由したうえ、第一審被告に対してその主張のような根抵当権の設定及びその設定登記をしたとしても、右根抵当権設定行為は、前記民法1013条の規定に抵触する相続人の処分行為として無効なものというべきであり、受遺者であるヨリ子及び第一審原告サト子は、前記遺贈によるそれぞれの所有権取得につき、その所有権移転登記を経ることなくこれを第一審被告に対処することができるものと解すべきである。

しかるところ、前掲第一審原告依田ナミの本人尋問の結果と弁論の全趣旨によれば、ヨリ子は昭和58年4月27日死亡し、母である第一審原告依田ナミがこれを相続したことが認められ、これに反する証拠はない。

6 以上の次第であるから、本件不動産につき前記根抵当権の実行としてなされた本件競売手続の排除を求める第一審原告らの本訴請求は理由があり、これを認容すべきである。

三 よつて、右請求を一部棄却した原判決は一部不当であり、第一審原告らの本件控訴は理由があるから、原判決中右一部棄却部分を取り消し、同部分につき第一審原告らの請求を認容するが、第一審被告の本件控訴は理由がないから、これを棄却することとし、競売停止決定の認可及びその仮執行宣言につき民事執行法194条、38条、37条、訴訟費用の負担につき民事訴訟法96条、89条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

別紙〈省略〉

〔参照2〕 一審(宇都宮地 昭57(ワ)373号 昭59.9.28判決)

主文

一 被告が昭和56年7月22日字都宮地方裁判所昭和56年(ケ)第121号不動産競売事件において別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地についてした担保権の実行としての競売は許さない。

二 原告らのその余の請求を棄却する。

三 訴訟費用は、これを二分し、その一を原告らの、その余を被告の負担とする。

四 別紙物件目録(一)ないし(三)記載の土地について当裁判所が昭和57年11月8日にした担保権の実行としての競売停止決定はこれを認可する。

五 別紙物件目録(四)記載の建物について当裁判所が昭和57年11月8日にした担保権の実行としての競売停止決定はこれを取消す。

六 この判決は、前記第四、第五項に限り仮に執行することができる。

事実

第一当事者の求めた裁判

一 請求の趣旨

1 被告が昭和56年7月22日宇都宮地方裁判所昭和56年(ケ)第121号不動産競売事件において別紙物件目録記録の不動産についてした担保権の実行としての競売は許さない。

2 訴訟費用は、被告の負担とする。

二 請求の趣旨に対する答弁

1 本案前の答弁原告らの訴を却下する。

2 本案の答弁

(一) 原告らの請求を棄却する。

(二) 訴訟費用は、原告らの負担とする。

第二当事者の主張

一 原告の主張

1 別紙物件目録記載の不動産(以下、本件不動産という。)のうち(一)ないし(三)の土地(以下、本件土地という。)は登記簿上依田要造の所有名義となつており、(四)の建物(以下、本件建物という。)は登記簿上依田良治の所有名義となつており、いずれにも別紙根抵当権目録記載の根抵当権設定登記がなされているところ、昭和56年7月22日、被告の申立により、担保権の実行としての競売手続開始決定がなされ、債権者である被告のために差押がなされた(字都宮地方裁判所昭和56年(ケ)第121号)。

2 本件不動産は、もと依田松吉の所有であつた。このうち本件建物についての同人の所有権取得の経緯は次のとおりである。

松吉は、昭和52年4月ころ、本件建物の建築を計画し、その資金として500万円を工面したが、自らは病身であつたので右500万円を二男要造に預け、同年5月11日、要造を通じて大工高木多市に建築工事を請負わせた。松吉は、昭和52年7月16日に死亡したが、そのころには、ペンキ塗装、風呂場や台所のタイル張り、ステンレス工事等を残すのみであり、すでに建物としての独立性を有していた。したがつて、松吉は死亡前に右建物の所有権を原始取得したものである。

3 松吉は、昭和45年10月21日付の遺言公正証書により、松吉所有の不動産全部を同人の四女である依田ヨリ子、五女である原告依田サト子に、持分はヨリ子5分の4、サト子5分の1として遺贈する旨の遺言をした。

昭和52年7月16日に松吉が死亡して右遺贈の効力が生じ、本件不動産は、ヨリ子、サト子の共有となつた。

ヨリ子は昭和58年4月27日に死亡した。ヨリ子には配偶者及び子がなく、相続人は母依田ナミのみであり、同人がヨリ子の地位を承継した。

4 松吉は、前項記載の遺言において遺言執行者を指定した(右事実は、原告らが自ら主張しているわけではないが、被告が本案前の答弁において主張しているところである。)。

5 本件の経緯は次のとおりである。

(一) 要造は、若年のころ怠惰で、浪費の悪習になじみ、父松吉と喧嘩して家を出た。そして他所で施盤工をしていたが、勤務先が倒産したため昭和47年松吉のもとに帰つた。松吉としては、このような要造を嫌い、従来から生活を共にしていたヨリ子及びサト子を頼りにし、両名に自己の老後の世話を任せてきた。松吉は、両名がその期待に応えてくれたのと、両名も独身で病い勝ちでありその将来が心配であつたために、本件遺言をしたものであり、前記遺言公正証書による松吉の意思は、単なる遺産の分割方法の指定等をしたものではなく、明らかに遺贈である。

(二) 松吉の死後、二男要造は、松吉の相続人のうち妻ナミ、長女石山三重子、三女右川サヨ子、四女ヨリ子、五女原告サト子の相続放棄の申述書等を偽造した。そして、これらの書類に基づき、昭和52年11月4日宇都宮家庭裁判所をして、右5名の者の相続放棄の申述を受理させた。

(三) また、要造は、行方不明であつた長男修一郎について、昭和52年10月21日、宇都宮家庭裁判所において不在者の財産管理人選任の手続を経た。そして、財産管理人に権限外の行為である遺産分割協議の許可を得させたうえ、要造において遺産全部を取得し、修一郎は相続分を放棄する旨の遺産分割協議書を作成した。

(四) 要造は、右のような処理の後、昭和53年1月9日に本件不動産のうち土地につき、相続を原因とする所有権転登記をしたものである。

(五) 本件建物については、松吉の死亡後である昭和52年9月6日に、要造が自己名義で所有権保存登記をした。

(六) そして、昭和53年1月25日に前記1の根抵当権設定登記がなされた。

6 以上のとおり、本件不動産はいずれも原告らの所有であるから、前記1の担保権の実行としての競売手続の排除を求める。

二 原告の主張に対する被告の認否及び反論

1 原告は、本件不動産の所有権取得原因として遺贈のみを主張するものであるところ、そうとするならば本件においては、遺言者松吉により遺言執行者が指定されているのであるから、本件訴訟遂行の当事者適格は遺言執行者にあり、原告らにはないものと解すべきである。したがつて、本件訴は却下を免れない。

2 請求原因1の事実は認める。

3 同2のうち、本件土地がもと松吉の所有であつたことは認めるが、本件建物の所有権取得の経過については否認する。本件建物は、要造が注文主となつて業者との間で請負契約を締結したものであり、要造においてこれを原始取得したか、あるいは業者より引渡しを受けてその所有権を取得したうえ、昭和52年9月6日所有権保存登記をしたものである。

4 同3のうち、本件不動産がヨリ子及びサト子に遺贈されたとの点は否認し、その余の事実は知らない。原告の主張する松吉の遺言は、被相続人である松吉が自己所有の不動産を共同相続人のうちのヨリ子及びサト子の両名に相続させる旨指示したにすぎないものであつて、それは遺贈ではなく、遺産分割方法の指定とみるべきものである。

5 同5の(一)の事実は知らない。遺贈であるとする点は争う。同(二)のうち、相続放棄の申述書等が要造の偽造であるとの点は否認し、その余の事実は認める。同(三)ないし(六)の事実は認める。

6 本件の経過は次のとおりである。

(一) 松吉は、昭和52年7月16日に死亡した。そして、要造を除く相続人らがいずれも相続を放棄し、松吉所有の本件不動産(このうち建物については、仮に松吉が請求原因2のような経過で所有権を取得したものとしても)を要造が単独で相続した。

(二) 被告は、本件不動産の所有者である要造との間において別紙根抵当権目録記載のとおりの設定契約を締結のうえ、その旨の設定登記をなし、これに基づいて本件担保権の実行に及んだのである。

第三証拠〔略〕

理  由〈省略〉

別紙〈省略〉

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